作品概要

作品名:水差しを持つ女
作者:ヨハネス・フェルメール
制作年:1662
所蔵:メトロポリタン美術館 (アメリカ)
《水差しを持つ女》は、17世紀のオランダ絵画黄金期に活躍した画家ヨハネス・フェルメールの作品。
フェルメールの真作の総作品数は33~36点と、生涯描いた絵の数はとても少ない方です。風景画や宗教画、神話画も数点確認されているけど、その多くはオランダのデルフトの街に住む中流階級層の室内での生活を描いた風俗画です。
絵を観察しよう。何が描かれてる?

白い頭巾を被っている若い女性が右手で窓を開きながら、左手で水差しを持ってる。
青色のスカートが綺麗!
水差しは大きな鍋の上にあり、赤色のテーブルクロスが敷かれてる。
後ろの壁には、地図が掛けられてる。
窓から光が差し込んでる。

作品の特徴
精巧なタッチ
フェルメールの作品は、筆跡や修正の痕跡を全く残さない精密な画風で知られてます。
この正確さを支えた手法として、「カメラ・オブ・スクーラ」というカメラの一種を作画に使って、正確に距離を図っていました。

17世紀のカメラ・オブスクラ。部屋を暗くし、壁に開けた穴から屋外の風景の光をキャンバスの上に映し出す
光の描き方
狭い部屋の中では線形の遠近法が強調できないので、光の使い方が唯一の強調源になっています。
フェルメールは、自然の光の動きを細かく捉えることで、それらの色味に自然な明るさを保たせます。
光を表現するために、フェルメールはポワンティエ(点綴法:てんていほう)という技法を使って、「シャープでいながら滲んだ効果」を生んでいます。この技法によって、人物や物体の輪郭を溶かすように淡く描かれているのが、作品のあたたかさを演出しています。
近くで見てみると点々がたくさん見えるので、もしニューヨークのメトロポリタン美術館に行った際は、注意して観てみてください。
フェルメール特有の色使い
フェルメールの使う鮮やかな青色は、ウルトラマリンブルーと言って、別名フェルメールブルーと呼ばれました。
この青色の原材料は、当時金よりも貴重で「天空の破片」と呼ばれた鉱石「ラピスラズリ」。ヨーロッパ周辺では、アフガニスタンでしか産出できない貴重な絵の具だったんですが、フェルメールはこの青をふんだんに使いました。
▼『フェルメールブルー』が特徴的な作品
日常を描く
フェルメールは「日常」を描くことを好みました。普通の人たちの普通の光景を美しく描くことに力を注ぎました。日常に紛れた「幸せ」を自然な光で切り取るフェルメールの作品は、人の気持ちを穏やかにさせます。
フェルメールの独特な構図
フェルメールは、左側に窓が置かれた部屋の中で日常生活を送る人物の作品をいくつも描きました。この《水差しを持つ女》も典型的な作例のひとつ。
▼窓際×日常生活『典型的なフェルメールの構図』
作品の評価
調和のとれた明瞭な色調や簡素でありながら、綿密に計算された均整な空間構成、光の反射やハイライト部分などを点描によって表現するポワンティエ(点綴法)、写実性の高い描写など画家が手がけた作品とその様式は、現代でも極めて高い評価を受けています。
あのダリも大絶賛だった!

シュールレアリスムの画家、サルバドール・ダリはフェルメールを大絶賛していました。
ダリは、何度もフェルメールの作品を自分の作品のモチーフとして使用しました。ダリは自分と他の画家に得点を付けて評価していましたが、フェルメールはそこでも最高得点で評価しました。
ダリは、敬愛するフェルメールに対してこんなコメントまでしています。
アトリエで仕事をするフェルメールを10分でも観察することができたら、右腕を切り落としても構わない
作風も全く違う画家同士ですが、フェルメールの技法はダリをも魅了したんです。

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おまけ:盗まれた絵画
フェルメール作品は贋作も多く、中でも1945年のハンス・ファン・メーヘレンによる『エマオのキリスト』贋作事件は西洋美術史上、最も有名な贋作事件のひとつとして知られています。また作品の希少性から盗難も多く、1990年に発生した被害総額2億~3億ドル(当時価値)ともされる美術品盗難事件≪イザベラ・スチュワート・ガードナー美術館(ボストン)盗難事件≫で盗まれた画家の代表作『合奏』は現在も未発見となっています。

▶︎NYメトロポリタン美術館の本気。ヴェルサイユ展の世界観が素晴らしすぎた。
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