「マジ卍」を100年前に言ってたら教科書に載ってた説

こんにちは、ニューヨーク留学中美術史専攻のたいと(@taito212)です。

昨年、女子高生から生まれたマジ卍って言葉が話題になったじゃないですか。

女子高生がノリで使う、特に意味はない言葉くらいに思ってる人も多いんじゃないでしょうか。

この画像はLINEが公開した「JK用語でJKの1日を再現してみた」という動画のワンシーン。

この動画の製作にあたって、現役女子高生にヒアリングしたLINEプロデューサーの谷口マサトさんも、卍の意味に苦戦してます。

女子高生たちに実際の使い方を根掘り葉掘り聞いたのですが「だから、意味なんてないの。あるのは感情だよ」と返されて、しびれました。 by 谷口さん (参考:「マジ卍」どんな意味かわかる?大人が知らない最新JK用語

毎日新聞の記事によると、三省堂の辞書編集に携わる委員もこの言葉に関心を寄せたものの結局「意味がはっきりせず、辞書に載せようがない」とぐうの音も出ない様子w (参考:マジ卍。意味や流行の起こりは? 専門家も「?」

海外のネット上でも、「日本の女子高生は、お寺の卍のマークが好きなの???」と、まじ卍の意味に対する「?」マークが炸裂してますw(参考:Cross-Cultural Collision

たいと
まじワロタwww

こういった若者言葉が誕生すると、いつものように大人たちから厳しい批判の声もあるようで・・・。

いわゆる、「日本語の崩壊を憂う系」大人の「けしからん」といったコメントが多いですね。

マジ卍的な言葉を探求してたロシアの未来派詩人

ところが、最近とある文献を読んでいたら、歴史上でまじ卍に限りなく近いことを本気でやってる人たちを発見したんですね。

それは、20世紀前半に活躍したロシアの未来派詩人グループ『ギレアです。(ドン)

未来派とは

1910年代に興隆したロシア・アヴァンギャルドの潮流で、”新しい芸術”を志向した芸術家たちのこと。サンクトペテルブルクの詩人グループ「ギレヤ」が、「未来人」を意味するロシア語”ブジェトリャーニン”を名乗ったのが始まり。

この『ギレヤ』という詩人グループが1912年に出版した文集『社会の趣味への平手打ち』がかなり画期的なことを言ってます。

われわれの予期せぬ最初の新しい言葉を読む人々へ。

 我々だけが我々の時代を代表する者である。言葉の技術でもって時代の角笛を吹き鳴らすのは我々である。過去は狭苦しい。アカデミーやプーシキンは象形文字よりもわかりにくい。プーシキン、ドストエフスキー、トルストイ等々を現代の汽船からほうり出せ。

つぎのような詩人の権利を尊ぶことをわれわれは命令する。
(1) 自由に派生した言葉で辞書の語彙を増大させること。(言葉の新方法)
(2) 既成の言語を徹底的に憎悪すること。
(3) 諸君が風呂屋の箒で作った安物の栄冠を、恐怖をもってわれわれの誇り高き額からはらいのけること。
(4) 口笛と憤慨の海のただなかで、「われわれ」という言葉の塊の上に踏みとどまること。

たいと
すごいこと言ってますねwww (3)と(4)に関しては、意味不明ですw

ちょっと難しいですが、要するに「既成の言葉の枠から飛び出ろ!」ってことを言ってます。

「カラマーゾフの兄弟」を書いたドストエフスキーや「戦争と平和」を書いたトルストイなど、帝政ロシアの文豪たちをディスってますね。

この未来派詩人たち『ギレア』の試みは新しい概念を生み出します。

意味を超越した言葉「ザーウミ」とは

この未来派の潮流の中で、詩人グループ「ギレヤ」にいたアレクセイ・クルチョーヌィフは、「言葉そのもの」の文字のイメージや音といった物質性に注目して、意味を超えた言葉ザーウミ(zaum)」を生み出します。

ザーウミは、日本語での訳語としては、『超意味言語』と言われます。英語では、Beyond(超える)とSense(意味)を組み合わせて、”Beyonsense”(意味を超える)いう訳され方をしている言葉です。

クルチョーヌィフを筆頭に「ザーウミ」という造語を使った詩作の運動は他の未来派にも影響を与えました。「ザーウミ」を操ることに熱心だった未来派の詩人の一人ヴェリミール・フレーブニコフが書いた詩がこちら。

いや、読めるかーーーーーーい!

ってツッコミを期待しつつ、解説しますね。

英語では、”Incantation by Laughter”っていうタイトルの詩で、「笑う呪文」とか「笑い声」とかいう訳し方でいいのかと。(日本語の文献でほぼほぼ扱われていません。)

太文字で書かれている”Заклятие”が「呪文」、”CMEXOM”っていうのが、「笑い」っていう意味です。

その後に詩が続くんですが、ここからが「ザーウミ」の連発。つまり「意味を超越した言葉」「意味のない言葉」なんです。

分かりやすいように赤線を引いて説明すると、

赤い四角で囲った”CMEXON”以外、ほぼ全「ザーウミ」ですw

そもそも意味がない言葉なんで、「日本語ではどういう意味?」と言われても説明のしようがありません。

天下のGoogle先生の手にかかってもこのざま。

たいと
Google先生の困惑っぷりがすごいですねwww

この詩をよく見てみると、“CMEXON”の言葉じりや形を変えた造語をたくさん使っていて、”CMEX〇〇”や”〇〇CMEX”という文字を確認できます。

要するに、「言葉の流れがおもしろければいいんじゃん?」的なノリ。

これは、女子高生の使う『マジ卍』に限りなく近いところがあります。この詩と同じように、マジ卍も”まじ”と”まんじ”の発音が似ている事で、語呂を楽しんでいるという点も類似しています。

意味のない言葉「ザーウミ」で書かれたロシアオペラ『太陽の征服』

「こんな詩勝手な思いつきで書いてみただけだろ」「何言ってんのか分からんよwwww」って思う人もいると思うんですが、これが未来派の芸術家にとっては、大真面目なんですね。

「ザーウミ」を生み出したクルチョーヌィフは、抽象画家のカジミール・マレーヴィチと共に太陽の征服というオペラを製作しています。(制服と太陽という欅坂46の曲があったんだけど、多分ここから取ってる。歌詞は全く関係なかったw)

オペラの台本は、クルチョーヌィフが生み出した「ザーウミ」で書かれ、先ほど紹介した詩を書いたフレーブニコフも演劇の序幕の詩を担当しています。

たいと
言葉遊びがだいぶ大それたことを成し遂げましたねw

クルチョーヌィフは、エッセイ”The Word is Broader Than Meaning”「言葉はその意味よりも広い」(正式に日本語訳されてないので、直訳しときます汗)の中でこんなことを言っています。

“We have liberated the word from the chains of meaning.”「われわれは、意味の鎖から言葉を解放した」

意味に縛られない、意味を持たない自由な言葉を作り上げたんだ。ということですね。

たいと
・・・・・・言葉を解放って・・・・マジ卍www

芸術家が”意味”を排除することで導いた答え

この「既成概念ぶっ壊せ精神」はロシアの画家にも受け継がれて、シュプレマティズムという先鋭的な芸術運動の先駆けになるんですね。ざーーーっくりいうと。

ロシアのアーティストは、当時からほんの40年くらい前まで、こんな絵を描いてたんです。

しっかりした絵でしょ?

それがこの後、西洋がモダニズム(近代化)に進んでいく中でアイデンティティを模索し始めます。19世紀後半~20世紀前半のロシアのアートって西洋の動きと自国のアイデンティティを探すので精一杯で芯がブレブレだったんですね。

オペラ『太陽の征服』で、舞台美術を手がけたカジミール・マレーヴィチもその一人。しかし、『太陽の征服』あたりから作風が一変するんです。

未来派の詩人が言葉を”意味”から解放したように、マレーヴィチは”意味”を徹底的に排した抽象的作品に取り組み始めます。それが『シュプレマティスム(絶対主義)』。

精神と空間を絶対的に自由にしようと試みて、彼は”無対象”を対象に作品を作り始めます。

今まで美術史の中で培われてきた遠近法とか、奥行きを綺麗に描くための一点透視図法などの描き方だけでなく、描かれる絵の意味やテーマなど。

マレーヴィチは、

「芸術家が描かされてきたありとあらゆるものから、美術を解放してやるー!!!!!」

と息巻いて、辿り着いたのがこちら。(ドン!)

『黒の正方形』ですwwww

たいと
やっちゃってるわーw 完全にやっちゃってる・・・・。

この後さらに、『白の上の白(の正方形)』という(白く塗った正方形のカンバスの上に、傾けた白い正方形を描いた作品)など、意味を徹底的に排除した抽象的作品を製作するんですが、白紙という究極の抽象に達したマレーヴィチは

で、このあとどうするん・・・?

ってなって、結果自画像とか描き出したりしますwww(諦めよった)

ただ!ただですよ!

彼が追い求めた”意味から自由になる”絶対主義や彼のその作品は、後にロシア構成主義という新しい芸術の波を生み、建築やデザインの概念を考える上で超重要な役割を果たしたんです。(ここ重要!)

結果として、めっちゃいい仕事したんですねマレーヴィチ。

スターウォーズ 『エピソードIIIシスの復習』でダースベーダーが誕生し、暗黒の時代に突入したと思いきや、『ローグ・ワン:スター・ウォーズ・ストーリー』で「反乱軍のスパイたちが帝国軍の最終兵器デススターの設計図を盗むことに成功」し、『新たなる希望』に繋がったくらいのいい仕事してます。
たいと
ピンとこねーよとか言ってるやつマジ卍

要するに、時代と時代をつなぐ画期的な出来事だったってことです。

マジ卍は捉えようによってはマジで芸術

では本題に戻ります。

マジ卍。

専門家に聞いても、使用してる女子高生に聞いても、説明ができないこの不可解な言葉。

一見、意味不明、若者のお遊びくらいに捉えられてしまいそうですが、まさにこれは言葉の意味に固執した「社会への平手打ち」であり、立派な「ザーウミ」であり、ロシアの未来派の詩人が試みた”言葉の解放”の日本版であり、シュプレマティスムだと思うんですよね。

このマジ卍がもっと深く評価される時代なら、つまりロシアの未来派よりも早く生まれていたら、日本の美術界にも文芸界にも革命をもたらしたんじゃないかって思ったりしました。

教科書に載ってもおかしくないレベルの大芸術運動の先駆けになったんじゃないかと。

ただ、今からマジ卍を深めて美術に昇華しようって言ったって、もうそれは遅いですよ。すでにロシアがやってる事ですから。今やったところで、美術史でよくある”復興(リバイバル)”でしかないので、特に革命でもなんでもないんです・・・。

マジ卍・・・。

惜しかった。生まれた時代が悪かった。

日本の”ティーンエイジャーが産んだ”一つの言葉の”遅すぎる誕生”を、嘆く美大生の戯言でした。

おわり。

追記

(※タイトルには100年前って書いてますが、厳密にはロシアの未来派ができる104年以前だったらです)

でも、それよりも前って事は、日本だと十代の頃の樋口一葉とかが筆持ちながら

樋口一葉
マジ卍。小説とかマジ卍

って言ってる事になるので、それはちょっと嫌だなw

シェアしてくれたら、尻尾振って喜ぶよ

ABOUTこの記事をかいた人

たいと

ニューヨークの大学に留学中の23歳。 絵は描けないけど美大生。 『アートをもっと身近に』をテーマにアウトプット。海外生活や旅のことも書きます。 現在、ニューヨークで若者のクリエイターコミュニティを運営中。