生きる上で必要のないもの。全米詩月間のプロジェクト『ニューヨークの詩』をみて思ったこと

Texted by 勝俣泰斗(@taito212

人間は歌やダンス、映画や小説がなくたって生きていける。

本屋さん行けば本はたくさん並んでいるし、美術館に行けば絵は数え切れないほど展示されているが、そんなものはただ生きるためであれば必要ない。

本来、人間なんて飯が食えて、寒さをしのげて、寝床があれば”生きていく”ことはできる。人間以外の動物はみんなそうやって生きているわけで。

でも人間だけはそれだけじゃ物足りなくて、どうせなら”善く”生きたいとか、”豊かに”生きたいとか、自分の存在を知って欲しいとか、ただ生きていくには必要のないものまで考える。

そのために悩んで、苦しんで、喜んで、泣いて。一生懸命、生きることに”意味”を求めたりする。あらゆる技術を生み出してコントロールしてきた人間は一番強いようで、黙って生き続けることもできない。一番弱い存在だ


ニューヨークで見つけた詩

ニューヨーク。

世界でトップクラスの金融都市で、世界の商業、文化、ファッション、エンターテインメントの中心地でもある。

街を見渡せば、毛皮のコートに身を包んだいかにもお金持ちそうな婦人もいれば、すぐ足元に毛布にくるまって座り込むホームレスがいる。いろんな人間の生き方をギュッと凝縮したミニチュアみたいな街がニューヨークで、多様な生き方があるだけにお互いに無関心なところもある。

そんなニューヨークの街を歩いていたら、普段広告が載ってるキオスクの看板がいつもと違った。

そこにはシンプルな詩が書かれていた。

-小さな鳥-

いつか物事はちょっとだけ良くなる。

トンネルの先に光を見つけて、鳥みたいに自由になれますように。

暗いトンネルを抜けて、小さな鳥が眩しい太陽に向かって羽ばたいていく映像が脳内に流れた。

全米詩月間の試み『City Poetry(ニューヨークの詩)』

調べてみると4月は全米詩月間(National Poetry Month)とのこと。僕が見た詩は、CIty Poetry(ニューヨークの詩)というプロジェクトの一つだということが分かった。

City Poetryとは

全米詩月間にちなんで、患者支援団体アライアンス・フォー・ポジティブ・チェンジ市情報工学・テレコミュニュケーション局が合同で企画したプロジェクト。ニューヨーク市内の1500ヵ所のキオスクのインフォメーションボードに、HIV/AIDSなどの慢性病と共に生きるニューヨーカーの日々の思いを詠んだ短文詩が紹介される。

この患者支援団体アライアンス・フォー・ポジティブ・チェンジは、15年間に渡って文芸創作のクラスを開催してきたが、キオスクのインフォメーションボードを使ったプロジェクトは今年が初めてだそう。

それを知って詩を振り返ると、また印象が変わった。

「病床から眺める窓の外の景色。自由に飛ぶ鳥を見て自分もいつか良くなって、自由に外に出るんだ。」この詩を書いた人は、そんなことを思ったのかもしれない。

HIVと戦うニューヨーカーの詩

他にもHIVと戦う患者のこんな詩を見つけた。「Who AM I?」。私はだれ?という詩だ。

HIVの治療に苦しむゲイの男性の詩。一部だけ紹介しようと思う。

Who Am I?

”I am right and wrong. I am drink and drugs and disease. I am hated. I am abused denied and vilified I have HIV and Hep C. But AIDS will not be the death of me.”

私は正しいこともするし、間違ったこともする。私は酒を飲み、ドラッグをし、病気も持っている。私は嫌われている。私は否定されて、虐待され、HIV患者でC型肝炎ウイルスを持っている。しかし、私はエイズなんかでは死なない。

“I am gay lesbian bisexual transgender. I am proud.

私はゲイでレズビアンでバイセクシャルでトランスジェンダーだ。私は誇りを持っている。

I am here to stay. This is my time to be alive!”

私はここにいるためにいる。これは私が生きるための時間だ。

I am lover and I am loved. I am perfect as I am. I am joy. I am bliss. I love myself as I am.”

私は愛されている。私は今のままで完璧だ。私は喜びに溢れている。私は今の私が好き。

自分とは何か。ほとんど「私は〜」で始まるこの詩には、自分を見つめて今を生きるHIV患者の魂が乗っかっている。

綺麗事だけじゃない。本当の自分。病と闘う覚悟がシンプルな言葉の中に潜んでいる。この詩を読むと勇気をもらえる気がした。勇気をもらえるだなんて、月並みな表現を詩人に見せたら怒られそうだけど、本当にそう思ったのだから仕方ない。


「ジブンってなんなんだろう」

そんなことを例えば猫が、象が、蟻は思うんだろうか。

聞いてみたことがないから分からない。いや、猫に関しては前に聞いてみたことがあるけど答えが返ってこなかったから、正確には答えが返ってきたが、それが翻訳できなかったから分からない。

ただ人間はそんな問いを日常的、あるいは人生の重要なフェーズにおいて考えながら生きている。その中で自分が「ジブン」だと思うものを他者に表現したり、本を読んだり、映画を観たりして「ジブン」の領域を広め、他の人と共鳴しようとする。

誰かの表現が、誰かの言葉が、自分の中にスーッと入ってきて、感動したり、勇気をもらえたり、生きる意味を見出せたり。他の動物からみたら滑稽だけど、やっぱりただ生きるには”必要のないもの”が僕たち人間を人間たらしめていると思う。

だからこそ、”必要のないもの”をもっと大切にしたい。今を生きている人たちの声に耳を澄ませて、自分の中に新しく生まれた感情を拾い上げる。そうやって、ジブンを見つけ、見失いながらも、表現し続けたいと思った。いつか誰かの胸にも響くように。

Texted by Taito Katsumata(@taito212

この記事を読んだ人におすすめ⬇︎

好きなものを好きって言うこと。〜アートフェア参加レポート〜

【インタビュー】「モネのように生きたい」ニューヨークに住む19歳の美大生のこれまでとこれから。

『劣等感の使い方』コンプレックスを生かす方法

漠然と人生が「つまらない」と感じてる人へ

あなたはだあれ?って方はこちら⬇︎

ABOUTこの記事をかいた人

たいと

ニューヨークの大学に留学中の23歳。 絵は描けないけど美大生。 『アートをもっと身近に』をテーマにアウトプット。海外生活や旅のことも書きます。 現在、ニューヨークで若者のクリエイターコミュニティを運営中。