美大の闇。アート界の闇。絵画が盗難されるということ。

Texted by 勝俣泰斗(@taito212

「拝啓〇〇殿。貴殿のお宝を頂きにあがる。いかなる防備も無駄なり。ーー近日参上ルパン三世」

小さい時からテレビシリーズで観ていたルパン三世。狙った獲物は必ず奪う神出鬼没の大泥棒。どんな警備もするりとくぐり抜けて、お宝や”美術品”をかっさらうルパンの姿は、少年時代の僕の心を躍らせた。

しかし、承知の通り、「盗む」と言う行為は現実の世界では許されない。

ルパン三世の世界はあくまでフィクションだが、実際僕が通う美大では、美大生の作品の盗難が問題になっている。

美大で絶えない作品の盗難

ニューヨーク州立大学に通うDoliah F.氏は大学での盗難の問題をこう語る。

当大学のビジュアルアーツ棟内に展示される大学生、大学院生の作品が、毎セメスター盗難や損壊の被害にあっています。2017年の秋には、20点以上の作品が一度に盗まれ、数点の作品が意図的に破壊されました。この春学期もすでに、画材も含めて、スタジオから作品が盗難される事件が起こっています。(翻訳・引用:Security Cameras in the Visual Arts Building

「大学の作品が盗難されるなんて。」と思うかも知れないが、よくよく考えれば学生の作品と言えど、売れる可能性もあるわけで、無防備に展示されている大学の建物内にある作品が転売目的で盗難の対象になるのは不思議ではない。

画材の盗難や作品の損壊というところを考えると、同じ美大の学生が盗んだとか、嫌がらせで壊したとも考えやすいが、いずれにせよ許されたことではない。魂を削って作った作品が盗まれるアーティスト側の気持ちになれば、たまったもんではないはずだ。

アート作品の盗難

作品の盗難はもちろん大学に限らない。美術品の盗難データサイト「Theft and forgery in the world of art」によると、世界中で年間に盗難される美術品は5〜10万点に及ぶと言われていて、FBIは美術品窃盗犯が年間60億ドルから80億ドル(約668億〜891億)の利益をあげていると見積っている。 過去に起こった名画の盗難の例を紹介しよう。

消えたモナリザ

誰もが知る名画。天才レオナルドダヴィンチの描いたは1917年にルーブル美術館から忽然と姿を消した。フランス人詩人ギヨーム・アポリネールに容疑がかかり一度投獄され、なんとその友人のピカソまで疑いをかけられたが2人とも無実が発覚。事件から2年後、ルーブル美術館元職員のイタリア人のが真犯人であることがわかった。

犯人は、ルーブル美術館の清掃用具入れの中に閉館時間まで隠れ、その後モナリザを外してコートの下に隠して逃走。イタリア愛国者の彼は、ダヴィンチの作品はイタリアに収蔵されるべきと信じていたんだとか。犯人はフィレンツェのウフィツィ美術館にモナリザを売却しようとして逮捕された。

日本最大級の事件にも繋がったモネ「印象・日の出」盗難

以前の記事でも話題に上がったモネの「印象・日の出」は1985年に盗まれた。日本人も含む、フランス人窃盗団は、盗みに成功したものの、日本で売りさばくことに失敗し、金に困った挙句、1986年に有楽町の三菱銀行で三億円強盗事件を起こした。

11億の懸賞金がかかった美術品

アメリカの美術品盗難史上最高額の被害になったのが、1990年のボストンのイザベラ・スチュワート・ガートナー美術館からレンブラントやマネ、フェルメールなどの名画13点が盗まれた事件。

警官を装った二人組の男が犯行に及んだ。FBIが23年の時を経てようやく主犯格とされるボストンのニューイングランド・マフィアのボスを含む容疑者を探り当てたが、すでに他界していたので逮捕は実現せず。

ガードナー美術館は、13点の絵の変換に5億5665万円の賞金をかけたが、2016年に倍の11億円に懸賞金を引き上げ。しかし、2017年末の時点で増額した分の懸賞金を取り下げた。いまだに作品の行方は不明。

過去最多盗難数を誇るレンブラントの絵画

ヤコブ・ド・ヘイン三世の肖像画/レンブラント

過去に4度の盗難にあった肖像画。理由は単純。とても小さいからだ。小さいものが多いレンブラントの作品の中でも最も小さいこの作品は、1967年に展示スペースの隙間から侵入した男によって盗難される。しかし、大量の指紋により特定され奪還。6年後、美術館を訪れた青年によって白昼堂々盗難される。その後逮捕、奪還。1981年再々度盗難、のちに奪還。美術館のずさんな警備に非難殺到し、大量のセキュリティを設置するも、またしても盗難。

この時、美術館は新聞にて犯人にメッセージを送った。その内容が傑作。

『極端に暑かったり、寒かったりするところに絵を保存しないこと。できる限り持ち運ぶのも避けること。』

なんと犯人に絵画の保存方法を説明。名画を保管する美術館としては情けないが、作品に対する愛を感じずにはいられない話だ。

その後、犯人は見つからないまでも絵はドイツの駅で発見された。4度の盗難にあったこの作品は「Takeaway Rembrandt(お持ち帰り用レンブラント)」と呼ばれている。

名画の行方に困る窃盗犯たち。名画で悪事を働く犯罪組織。

名画の価格が高騰していることもあって、盗難は後を絶たない。美術品の窃盗犯は2パターンある。

一つは、転売目的の窃盗犯。美術に精通していなく、絵画を盗んだものの、その行き先に困るケースが多い。

何と言っても有名な絵は、換金する事ができない。考えてみれば分かるように、名画が盗まれた後に、「この絵を売ります」と言って市場に出したり、美術館に持って行ったら自首しているようなもので、実際にモナリザの件も含め、多くの犯人が捕まっている。

二つ目は、転売を目的としないプロの窃盗犯。名画を盾に身代金を要求したり、囚人仲間の減刑や釈放を求めるもの達だ。こう言ったプロの窃盗犯の元に名画が渡ると、闇市場に流れて、犯罪組織の資金源になったりする。社会にとっても悪影響が出るのだ。

どちらのパターンであれ、作品の窃盗犯は、売りようがないと分かったり、足がつきそうになったりした時点で破棄したり、燃やしたりして証拠隠滅する事例が多い。

名画を守るためにも、社会を守るためにも、美術館・美術品のセキュリティはしっかりするべきだ。

美大生の作品を守るために

先月、僕の大学のビジュアルアーツに関わる学生を中心に、学校に対する署名運動が始まった

署名運動の内容は、ビジュアルアーツ棟内で起こる度重なる盗難事件を防ぐために、棟内にセキュリティカメラを設置したいという学校への要求だ

美大の学生が安心して創作に励み、作品を展示できる環境を作るためにも、最低限のセキュリティは確保したい。

この署名運動は、オンラインでの問題解決を促進するために世界中のキャンペーンを掲載・閲覧できるプラットフォームAVAAZで掲載されている。(参照:Security Cameras in the Visual Arts Building

学生が本気で困っているので、なんとかしたいと思って署名に参加した。健全な形でアーティストが育って、アートが市場に出るためにも大学の設備を強化して欲しいと思う。

追記:美術品の盗難・奪還を巡る戦いを描いた本

美術品の盗難、奪還を巡る追いかけっこはまるでアニメさながらだ。実際に、ルパン三世に出てくる銭形警部のようにインターポールやFBIが捜査に当たって奪還するために全力を尽くす。

美術品を巡った話を描いた本が2つあるので紹介。おかしな角度ではあるが、これを機に、美術品がどれほどの価値を持つものなのかや、アートそのものに対して興味を持つきっかけになったら嬉しい。

1. FBI美術捜査官―奪われた名画を追え

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一つめは奪われた名画を追ったFBI美術捜査官を描いたノンフィクション。

コメント
レンブラント、フェルメール、ノーマン・ロックウェル・・・。美術館の壁から、忽然と姿を消した傑作の数々。潜入捜査でたくみに犯人をおびき寄せ、歴史的至宝を奪還する。美術犯罪捜査に命を賭けた男と、そのチームの本当にあった物語。

FBI特別捜査官として20年のキャリアを持つ著者は、美術犯罪チームの創設に尽力した。世界中で犯罪捜査を指揮するとともに、警察組織や美術館に、美術犯罪の捜査や盗難品の回収、美術品の警備に関する技術指導を行う。現在、国際美術警備保障会社の代表取締役。

2. アノニム

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もう一つは、ニューヨーク近代美術館でのキュレーター経験もある作家の原田マハさんが、美術品の窃盗にスポットを当てたエンターテインメント小説。

あらすじ

現代アートの旗手、ジャクソン・ポロック幻の傑作「ナンバー・ゼロ」が見つかった。オークションにかけられた名画をめぐり、窃盗団〈アノニム〉はある計画を企てる。一方その頃、アーティストを目指す無名の高校生・張英才のもとに、あるメッセージが届き……。激動の香港で、驚愕のアート救出作戦が幕を開ける!

作者のコメント
『世界中には盗まれた絵画や美術品が何十万点もあるらしいんですね。しかも、一度失われたアートが再び出てくる可能性は極めて低いそうです。(中略)永遠に失われてしまうんです。そう知った時、悶絶するような焦燥感に駆られました。私には、盗品を救い出す力なんてありません。でも、せめて小説の中では盗まれた名画を取り戻したい。そこで、盗難にあった美術品を盗み返す義賊のようなグループを、作中に登場させようと思ったんです。』原田マハ

美術を守るために戦う2つの物語。どちらも面白いので、興味があればぜひ一度読んでみて欲しい。

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ABOUTこの記事をかいた人

たいと

ニューヨークの大学に留学中の23歳。 絵は描けないけど美大生。 『アートをもっと身近に』をテーマにアウトプット。海外生活や旅のことも書きます。 現在、ニューヨークで若者のクリエイターコミュニティを運営中。