好きなものを好きって言うこと。〜アートフェア参加レポート〜

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たいと

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ニューヨークの大学に留学中の23歳。 絵は描けないけど美大生。 『アートをもっと身近に』をテーマにアウトプット。海外生活や旅のことも書きます。 現在、ニューヨークでクリエイターの集まるシェアハウスを作るため尽力中。

Texted by 勝俣泰斗(@taito212

好きなものを好きって言うこと。簡単なようで難しい。

映画も本もレストランもホテルも、ネットを見れば評価が乗っていて、純粋に自分の”好き”を信じることができなくなっている気がする。

「これが好き」

大人になればなるほど知識や周りの評価が邪魔して、こんなシンプルなことが言えなくなっているのかもしれない


アートフェアに行ってきた

先月、ニューヨークのミッドタウンで開かれたAffordable Art Fairに行ってきた。

Affordableとは、「手頃な価格の」と言う意味。手頃な価格で買えるアートフェアだ。アートフェアというものに聞き馴染みがない人も多いだろう。

アートフェアとは

さまざまなアート・ギャラリーが一同に集まり、作品を展示販売する催し。基本的にはアート作品の売買を目的としているが、アーティストにとっては新作発表の場、コレクターやギャラリストにとってはアート市場の動向を探る情報交換の場、一般客にとっては新しい作品の鑑賞の場として、多角的な側面をもっている。(引用:アートスケイプ

ここにある通り、美術館と違う点は作品を売買することが目的であることだ。アートというと、美術館で鑑賞するものと思いがちだが、当然作品には値段がある。ニューヨークではアートは立派なビジネスであり、投資の対象でもある。このAffordable Art Fairでは、$1000~$10,000の価格帯のアート作品を扱っていて、気に入った作品はその場で購入することができる。日本円にして10万円〜100万円だから、「お手頃」と言ってもそれなりの値段はする。

Affordable Art Fair

アメリカのみならず、イギリス、タイ、スペイン、オランダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、香港、韓国、カナダ、アルゼンチンなど、世界各国から74ものギャラリーが集まり、会場には所狭しとアート作品が展示され、それぞれのブースのギャラリストがうちの作品が一番とばかりに立っている。

アーティストも自分の作品の前に立って、来場者と談笑したり、作品の説明をしたり。

美術館に比べて、カジュアルで和気あいあいとしている。

Affordable Art Fair

直感が鈍っていた自分

僕にとって初めてのアートフェア。

一通り作品を鑑賞してまわるが、僕ははじめ美術館との雰囲気の違いに少し戸惑っていた

今まで僕は、企画展や個展に足を運ぶと、作品の横のアーティストのプロフィールや作品の説明を見ながら、作家の意図や歴史を照らし合わせるようにアートを鑑賞していた。

大学で美術史を専攻しているのもあって、最近の僕は「学ぼう」と思ってアートを観ていることが多かったのだ。「ブラッシュワークがどうだ」とか、「この作品には誰々の影響が見える」だとか。

このアートフェアでは、作品の横には値段が記されていて、作品の説明はほとんどない。

そんな時、ふと横で女性の声がした。

「I love this. I want it(これが好き。欲しいな。)」

男性と2人で来ていた女性の一人がそんなことを言うと、男性の方が「リビングに飾るならこれくらいの大きさがいいね。」と一言。

Affordable Art Fair

まるで新居に置く家具を選んでいるかのように、アート作品を値段と照らし合わせながら選んでいた。

「これが好き。」

こんな簡単なことでよかったんだ。

アートを鑑賞する上で当たり前のこと

Affordable Art Fair

美術史を勉強していると、どうしても包括的にアーティストの作品に触れる必要がある。

ピカソを語るには、セザンヌを知る必要があるし、ジャポニズム抜きには印象派は語れない。アートの歴史は過去のアートに対するアンチテーゼの中で生まれ、塗り替えられてきた。

しかし、美術史の中で重要であるということと、その作品が好きかどうかは全くの別物。僕は、こんな当たり前なことを忘れていた。学ぶことに夢中で、「好き」「嫌い」をないがしろにしていたんだ。多分、難しく考えすぎていたんだと思う。「嫌い」と切り捨てて、見落とす情報を恐れていたのかもしれない。

普通に考えれば、有名なアーティストが描いたからと言って、どの作品も均等に価値が高いなんてこともありえなくて。当然晩年につれて絵が下手くそになる画家だって、初期は自分のスタイルがなくてブレブレの画家だっている。

20世紀以降に生まれた現代アートは、鑑賞の仕方や解釈も観る側に委ねられている。だから、作品が良いかどうかは、自分が決めるものだし、現代アートはもっと自由なものなんだ。

「ピカソより、普通にラッセンが好き」

こんなことを言う芸人がいたが、その通り。それでいい。

先入観を振り払ったら、作品が輝いてみえた

Affordable Art Fair

「どの作品を買いたいかな」

そんな目線で作品を観てみることにした。当然、大体の作品が10万円以上はするので、実際に買えやしないし、大学の僕の部屋なんて作品を飾るには狭すぎるのだが、頭の中で作り上げた真っ白なギャラリーに作品を並べる妄想をする。

急にウキウキしてきた。

僕が妄想の世界で購入して、妄想のギャラリーに展示している作品のほんの一部を紹介したいと思う。

アートフェアで出会った作品たち

実は釘と糸でできたポートレイト。糸だけなのに、伝わる表情。

ベトナムのアーティストのミニマルな絵。うっすらと舟を漕ぐ人が見える。

頭の中は素敵な景色。

積まれたほんの上でパソコンカタカタ。

鋭い眼差し。

カラフルな街。

一番好きだった作品

そして、最後に楽譜の上に書かれた水彩のタッチが印象的な、個人的に一番好きだった作品を紹介したい。

この絵の前に立った時、僕の頭の中にはこんな物語が浮かんだ。

傘をさす女の子。

雨の日。黒い傘に打ちつけるノイズに耳をふさぐように、大人は一様に憂鬱な顔をして歩いてる。

みんなは雨が嫌いという。だけど私は雨が好き。

人混みでちょっと立ち止まって、耳を澄ませてみる。ぽつぽつぽつん。ぽつぽつぽつ。

雨の雫はメロディーを奏で、音楽を運んでくる。傘でアンテナを張って、雨粒の音符を集める。

ランダムに耳に飛び込んでくる不思議な音色。ずーっと聴いてたら、今日もいいことが起こる気がした。

みんなは雨が嫌いという。だけど私は雨が好き。


Affordable Art Fair

アートフェアに参加していた人たちの目は輝いていた。世界各国から遥々ニューヨークにやってきたギャラリストやアーティストも活き活きとしていて眩しかった。

好きなものが好きで、「好き」に囲まれ、「好き」にまっすぐ向き合う人の目ってこんなに美しいんだ。そんなことを思ったアートフェアだった。

大人になってから、素直に「好き」って言えてるだろうか。知識や見栄に自分の直感を邪魔されてないだろうか。

自分の「好き」に周りの評価は関係ない。好きなことを好きっていえる気持ちを大切にしたい。

Texted by 勝俣泰斗(@taito212

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